研究開発者(須田雄悦氏)
(生物系)先端技術産業化コンサルタント
代表事務所
須田技術士事務所 所長
須田 雄悦先生
(同友会の正面玄関にて)
生産者が作り出した速効性米ぬか有機肥料
「農業技術体系」(農文協)、[土壌肥料篇]執筆文より抜粋(2000年記)
- 大量に出る米ぬかの醗酵肥料化による自然循環型農業の確立
- 有効態リン酸・ビタミン群豊富なオリジナル肥料
地域農業の概要
大潟村は周知のとおり八郎潟の干拓により誕生し、昭和39年に新村設置の行われた村で、その歴史は新しい。
農地の条件は、周辺残存湖の水位が耕地より高いため、機械排水に頼っており地下水位が一様に高い。また、大潟村の土壌は多かれ少なかれヘドロの影響を受けており、地力は高いが粘性が強く、畑作に適する土壌は限られている。
大潟村の農業の概要を【表1】に示した。
一戸当たり農地所有面積は平均15haで、農地の区画は1.25ha単位になっており、大型機械化体系が導入されている。
大潟村は年齢別人口構成にも特徴があり20~24歳にピークがあり、これがいわゆる入植者二世であり、全国でも類のない若さの溢れる村である。
【表1】(平成6年度村勢要覧)
大潟村の農業の概要 | |
農地 | 11,741ha |
人口 | 3,286人 |
人口密度 | 19.3人/km2 |
農家数 | 580戸(専業476戸,兼農家104戸) |
農家世帯人数 | 2,712人(男1,341人 女1,371人) |
農業従事者 | 1,726人(うち男882人) |
農業就業人口 | 1,666人(うち男847人) |
米収穫高 | 42,061t |
肥料製造への取り組みの経過
1.設置の経過
大潟村では産地と消費者を直結した米の宅配販売が行われており、精米のほか米の加工品、野菜なども宅配販売を行っている。
この中で、株式会社あきたこまち生産者協会、株式会社大潟村同友会、株式会社農友の3社は農家自ら組織した会社で、大潟村で生産される米の約35%を扱っている。
この3社の平成10年度の米取扱量は12,000t(20万俵)を超しており、宅配米の搗精に伴う米ぬかの産出量は玄米重の10%に当たる1,200tである。
従来はこの大量に産出する米ぬかを搾油原料として販売していたが、平成7年7月にこの宅配米販売3社が中心になって4,500万円の出資金を集め、年間1,500tの米ぬかを処理できる株式会社ゆうきを設立した。
製造技術は、開発した(生物系)先端技術産業化コンサルタントと共同で特許申請を行ない、株式会社ゆうきのオリジナル製品として確実なものにしている。
2.処理製造にあたってのねらい
【1.米ぬかの産出量と肥料化のメリット】
次に、この肥料の地域への貢献度を見てみる。大潟村の土壌は成因からして地力が高く、イネの窒素施肥レベルは、ヘドロ層の厚い地帯では2kg/10a程度、地力の低い砂地盤で6kg/10a程度である。
これに対して米ぬかの産出量が10a当たり60kgとすれば、製品で50kg程度生産され、この窒素含有率を5%とすれば窒素総量が2.5kg程度になる。地力の高い水田では10aから産出する米ぬかを醗酵し肥料化することで、必要とする肥料成分を十分賄える計算になる。
したがって、米ぬか資源を有効利用することによって相当量の面積に利用でき、大潟村は自然循環型リサイクル農業を確立するのに最も適した地域になるといえる。
【2.堆肥化から肥料への切りかえ】
米ぬかに含まれる成分は他の有機肥料に見られないバランスのとれたもので、肥料成分のほかにビタミン類を多く含むなど優れたものである。しかし、特に北東北では分解が遅いこと、発芽障害を生ずること、奇形葉が発生することなどのため、米ぬかは従来からスイカの味付け肥料などとして一部で水を加え醗酵させて利用してきたほかは、産業廃棄物として扱われていた。
特に未熟性米ぬかをイネに施し、いもち病の多発、倒伏などを生じさせた例は多く、北東北では米ぬかの分解の遅いことに起因する障害が多いことから、本格的に肥料化するための研究はほとんどなされていなかった。
このような特性をもつ米ぬかを肥料化するため、当初は市販の醗酵菌を用いて長期間醗酵を行ない、堆肥化の促進を図った。
しかしこのような醗酵ではタンパク質の醗酵が先行し、強い悪臭が発生すること、長期間醗酵しても炭素率があまり低下しないことなどの問題が生じ、堆肥としての利用は可能としても、肥料としての利用はできるものではなかった。ましてや、悪臭公害には全く対応策がなかった。
このような経過を踏まえ、株式会社・ゆうきは製造目的を従来の米ぬか堆肥の製造から、醗酵米ぬか肥料の製造に切りかえた。
そして、製造技術をこの分野の研究が進んでいる(生物系)先端技術産業化コンサルタントに委託し、米ぬかに含まれる総合的な成分の大部分を単年度で作物に吸収させることのできる速効性米ぬか発酵肥料の製造に目標をしぼり、平成9年に再出発した。
プラントのシステムと肥料製造過程
1.処理システムの原理と処理過程
コンサルタントは米ぬかを腐敗の過程を経て肥料化するプロセスを避け、米ぬかを培地にして無臭醗酵で有用微生物を大量に増殖し、肥料化する技術を確立した。
こうして、名実ともに速効性米ぬか醗酵肥料が誕生した。開発者と株式会社ゆうきは共同で特許申請を行ない、オリジナル商品とした。
また最近まで発酵用種菌の生産は、培地を生産している企業にマニュアルを渡し委託生産していたが、今後この肥料だけで有機栽培を行なうとすれば、いっそうシビアな技術対応を必要とするため自社で種菌を生産することにした。
このため、種菌生産用の菌舎を建設し、米ぬか醗酵技術と種菌生産技術の両面から技術の改善を行ない、品質の改善維持に努めている。
製造プロセスは次の通りである。
【製品の形態は3.5mm程度のペレットで水分を7%程度含んでいる。】
2.生産されている製品の内容
【1.肥料の成分と特徴】
この肥料に含まれる成分はドライ換算で全窒素は5.2%で、うちアンモニア態窒素が2.3%である。施用当初から作物が利用できる窒素を十分に含んでいる。
全リン酸は9.0%で、うち水溶性リン酸を5.5%含んでおり、米ぬかに含まれるフィチン態や核酸態の有機態リン酸の相当量が水溶性に変化しており、この肥料の特徴の一つとなっている。
水溶性カリは3.5%含まれており、大潟村の条件では十分な量である。全苦土は2.5%で、うち水溶性苦土1.2%、イネの倒伏防止や野菜類の苦土補給に役立っている。
このほか、ビタミンB群が多量に含まれているのもこの肥料の特徴である。
醗酵に伴ってアミノ酸組成も変化しており、アミノ酸総量は、醗酵米ぬか>脱脂米ぬか>生米ぬかの順となっている。
米ぬかの醗酵に伴って、バリン、イソロイシン、ロイシンの中性アミノ酸が増加し、作物の生育に好影響を及ぼすとされている。減少するものはグルタミン酸やアルギニンである。
速効性米ぬか発酵肥料の成分分析表(数値:ドライ換算%) | |||||||
窒素全量 | 内アンモニア態 窒素 |
全リン酸 | 内水溶リン酸 | 水溶性カリ | 全苦土 | 内水溶性苦土 | 水分 |
5.2 | 2.3 | 9 | 5.5 | 3.5 | 2.5 | 1.2 | - |
また、糖組成にも変化を及ぼしており、醗酵に伴って単糖比率が高まっている。
製品の菌組成は放線菌5.3x10(6)、細菌類6.5x10(6)、糸状菌2.2x10(5)、酵母6.8x10(7)、ただし酵母は醗酵後期に相当量溶菌し無機化している。
ゆうきが開発した速効性米ぬか発酵肥料の無機化率
【2.肥効の持続時間】
肥効の発現は10週にわたる無機化試験と作物試験によって確認した。実用的な肥効の発現期間は60日間程度で、この間は継続的に肥効が発現している。
北日本の条件では、イネでは節間伸長期直前ころ、トマトでは3段花房着色期ころまでが実用的な肥効の持続期間といえる。
利用者との提携
1.イネで成果
この肥料だけでイネの有機栽培ができるか、その可能性を探るため栽培試験を行なった。
試験区は、完全有機区(醗酵米ぬか)、側条施肥+醗酵米ぬか、化学肥料区の3区2連制である。側条施肥にはネオペースト、化学肥料区の追肥には硫安を使用した。
試験の結果、完全有機質肥料区は初期成育と出穂期が若干遅れたが、登熟期の生育や収量は化学肥料並みで、食味や米質は勝った。
これに比べ、全量化学肥料区は収量で若干勝ったもののその差は少なく、米質、食味で劣った。側条施肥と醗酵米ぬかを組み合わせた区は生育が途中で停滞したが、収量は同様で、後期の追肥は省略できそうである。
これらの成果を踏まえて、平成11年には農家に大幅にとり入れられ、全面積速効性米ぬか発酵肥料だけの栽培も見られた。
その結果特に米質がすぐれ、収量も慣行栽培に比べ勝るとも劣らない成果を収めた。
速効性米ぬか発酵肥料によるイネ栽培試験
【表1】分げつ期生育調査時 期 | 田植え後29日(6/18) | 田植え後50日(7/9) | |||||
項 目 | 草丈 | 1m(2)茎数 | 葉色 | 草丈 | 1m(2)茎数 | 葉色 | |
区 | A.完全有機 | 27.7cm | 259 | 44.5 | 62.9cm | 519 | 45.3 |
B.側条+有機 | 27.1cm | 295 | 48 | 61.2cm | 492 | 42.8 | |
C.化学肥料 | 29.8cm | 345 | 44.3 | 62.4cm | 553 | 41.9 |
【表2】出穂期・葉色および登熟期の生育調査
区 | 出穂期 | 葉色 | 桿長 | 穂長 | 穂数/m(2) | 葉 色 |
A.完全有機 | 8月10日 | 45.3 | 82.2cm | 18.9cm | 435 | 32.2 |
B.側条+有機 | 8月8日 | 45.1 | 82.4cm | 18.3cm | 428 | 31.7 |
C.化学肥料 | 8月7日 | 45.6 | 84.4cm | 19.1cm | 439 | 32.8 |
【表3】収量
試験区 | 全籾重 | 玄米米重 | 精米米重 | 屑米重 |
A.完全有機 | 72.4 | 45.3 | 59.9 | 0.3 |
B.側条+有機 | 71.7 | 45.1 | 59.1 | 0.4 |
C.化学肥料 | 73.3 | 45.6 | 60.7 | 0.4 |
【表4】食味関連形質
試験区 | タンパク | アミロース | 脂肪酸 | 水分 | 総合評価 |
A.完全有機 | 8.10% | 17.80% | 14 | 14.60% | 80 |
B.側条+有機 | 7.90% | 18.30% | 15 | 15.00% | 81 |
C.化学肥料 | 8.20% | 18.40% | 14 | 14.90% | 78 |
2.野菜での成果
野菜類ではトマトとキュウリについて秋田県農業試験場で試験を行なっている。
いずれもこの肥料では初期成育はやや抑えられるが、生育の中~後期には生育が勝っている。また、農家の施用例でみると、ハクサイで根こぶ病が少なく、収量も多く特に食味が勝る。
ナスでは収穫後期まで樹勢を保ち、優品を生産できた事例が寄せられている。
このような成果、事例などからみて、肥料面から作物の有機栽培に確実に接近したといえる。
3.施用指針
この肥料を施用するときは、各県の施肥基準に示す窒素施用量に速効性米ぬか発酵肥料の窒素成分を合せてせようするだけで十分である。追肥は生育期間60日以下の作物では元肥だけで十分であり、それ以上の生育期間の作物には元肥施用後50日ころにこの肥料で追肥を行なう。
元肥と追肥の施用比率は作物の生育期間などに応じて配分するとよい。